なぜマリナーズはドラフトで人気がないのか──「時差と移動距離」の壁

近年はプレーオフ進出も果たし、若手の台頭が光るシアトル・マリナーズ。しかし、MLBのドラフトでは、いまだに選手から敬遠されがちな球団の一つでもある。その背景には、成績だけでは語れない「地理的な過酷さ」と「歴史的な苦労」がある。

マリナーズがドラフトで不人気な理由

MLBのドラフトは、NFLやNBAとは異なり、指名された選手が必ずしも入団するとは限らない。特に高校生や大学生は進学・残留を選ぶことも多く、「どの球団に指名されるか」は進路に大きく影響する。

その中で、シアトル・マリナーズは「ドラフト不人気球団」として知られてきた。理由は単純で、地理的に過酷だからだ。

アメリカで最も移動距離が長い球団

マリナーズはアメリカ北西端、ワシントン州シアトルに本拠地を構える。全30球団の中でも最も東海岸から遠く、年間の移動距離はMLB随一。例えば、ア・リーグ西地区の他球団(テキサス・レンジャーズやヒューストン・アストロズ)との対戦でも、移動距離は片道2,000kmを超えることがある。

しかもアメリカは4つのタイムゾーンが存在する。ナイトゲーム後の移動は「深夜便+時差ボケ」の連続。心身ともに消耗が激しく、これを嫌って選手側が「他の球団を希望する」ケースも実際にある。

「睡眠薬を使っていた」

この移動の過酷さを象徴するのがイチローのエピソードだ。
現役時代、シアトルを本拠にしていたイチローは、時差ボケを解消するために睡眠薬を使用していたと明かしている(※参考:インタビュー記事、本人著作など)。

食事やトレーニングよりも、「どう休むか」に苦労したというのは、いかにマリナーズの環境がタフであるかを物語っている。

FA市場でも敬遠されがち

このような地理的・環境的なハンディから、フリーエージェント(FA)で有力選手を獲得するのも難しい。お金があっても、選手が「そこに住みたくない」「家族が心配」と言えば成立しない。

だからこそ、マリナーズはドラフトや育成でコツコツと戦力を積み上げてきた。

近年の成績は上向き。だが…

そんなマリナーズも、ここ数年で若手の台頭と好成績により「強豪の仲間入り」を果たしつつある。フリオ・ロドリゲスなどのスター選手も現れ、ファンの期待も高まっている。

しかし逆に言えば、強くなればなるほど、他球団からの引き抜きの危険も増す。
マリナーズが「出て行く場所」から「戻ってきたくなる球団」へと変われるかは、球団経営と地域のサポートにかかっている。

マリナーズが抱える課題は、成績だけではなく「土地と距離」という根深い問題だ。イチローが刻んだ偉大な歴史も、そうした環境の中で築かれたもの。マリナーズの真の強さは、その困難に立ち向かい続けてきた「忍耐」にあるのかもしれない。

コメントする

CAPTCHA