銀行業界を再考する(後編)

DXと人材の転換点

DXは“手段”か“戦略”か──現場から問われる変革の本気度

メガバンク各社はこの数年、「DX」を成長戦略の最上位に掲げている。しかし、その中身は実に様々である。

三菱UFJ銀行では、API連携を基盤としたBaaS(Banking as a Service)構想の推進、AIによる与信判断、ペーパーレスの徹底など、業務プロセスの高度化と外部連携の両面に取り組む。一方、三井住友銀行は、グループ全体でSBIなどとの提携を進めつつ、金融サービスそのものをソフトウェア化する構想を打ち出している。さらに「Olive」に代表される、生活と金融の融合アプリ戦略もその一例だ。

だが重要なのは、テクノロジーをどう“文化”として根づかせるかである。「紙をやめた」「アプリを出した」ではもはや競争優位にはならない。現場の人間が“デジタルネイティブ”として思考・提案・意思決定を担えるか──そこに本質的な変革の是非が問われている。

“銀行員”という概念が終わる日──ジョブ型雇用と市場価値

DXの進行は、組織構造と人材観にも大きな影響を与えている。もはや「銀行員」という総合職的な存在は、少しずつ“役割”に分解されつつある。

財務分析に強い人間はコーポレートアドバイザーへ、資産運用に強い人材はウェルスマネジメント部門へ、ITに長けた人はエンジニアリング部門や外部企業へ──。人材流動のスピードは加速し、「配属=人生」の時代は終わった。

とりわけ外資系ではこの傾向が顕著だ。JPモルガンでは、個人の市場価値=処遇という原理が徹底されるため、キャリア設計は極めて能動的であり、組織に“守られる”感覚は皆無に近い。だからこそ、「何ができるのか」「何を成し遂げたか」が問われる

日系銀行でも、メガバンクを退職してベンチャーやファンドに転じる若手が後を絶たない。銀行の看板よりも、自分の専門性や志向性に重きを置く世代が、確実に台頭しているのだ。

これからの金融人材に必要な三つの視点

では、これからの時代に求められる金融パーソンとは、どのような人材だろうか。筆者は、以下の三点がカギになると考えている。

  1. 構造を読み解く力(ストラクチャリング)
     単なる営業トークではなく、企業や市場の構造的課題を読み取り、資金・人材・事業に対する包括的な提案を行う力。
  2. 技術と人間の橋渡しができる感性
     AIやブロックチェーンの知識だけでなく、それを顧客価値に転換する想像力。デジタルが冷たくならないための“翻訳者”の役割。
  3. 越境と編集の意識
     金融だけで完結しない時代において、他業種や異文化を取り込む“編集的”視点。たとえば、地域創生・医療・教育との接点を見つけられる感性は大きな武器になる。

「銀行」は終わらないが、「銀行の形」は変わる

20世紀の銀行は、預金・融資・為替という機能の集合体だった。しかし21世紀に入り、その“機能”はもはやGAFAのようなIT企業や新興のスタートアップによっても提供されるようになっている。

だが一方で、「金融を通じて社会を支える」機能──リスクをとり、未来に投資するという根本的な役割は、決して終わっていない。むしろその再定義と再編集が、いま最も求められている。

銀行は終わらない。ただし、銀行という“姿”は確実に変わりつつある。組織も、働き方も、価値観も。その変化の只中にいるということ自体が、現代の金融業界を生きる私たちの特権かもしれない。

コメントする