映画『ルノワール』撮影の現場で感じたこと

早川監督という「静かな柱」 

映画『ルノワール』。
私自身はラストシーンのみの参加でしたが、あの現場での時間は短くても深く心に刻まれています。

この作品は、日本・フランス・シンガポール・フィリピンの4カ国による国際共同制作。文化も言語も価値観も異なるスタッフたちが一つの作品に向かって動いている現場には、当然ながら緊張感や複雑さもあったと思います。

しかし、不思議と“ギスギス”した空気はなく、どこか柔らかく、風通しの良さすら感じる現場でした。その空気の中心にいたのが早川監督でした。

ぱっと見は穏やかな印象の女性ですが、実際に接してみると、丁寧さと柔らかさの奥に強くしなやかな“軸”を持っていることがわかります。

早川監督は日本語と英語を自由に行き来しながら、国籍や背景の異なるスタッフの間を「翻訳」ではなく「橋渡し」していました。文化的なニュアンスまできちんと汲み取り、誰も取り残さないよう配慮している姿が印象的でした。

雨で撮影が止まった時、たまたま私の隣にいらっしゃって、「蒸し暑くないですか?」と気にかけてくださったのを覚えています。特別な言葉ではないけれど、心がふっとほどけるような声のトーンで。その一言に、“現場を信じ、ひとり一人を大切に思っている”という姿勢が滲んでいたように感じました。

静かで優しい佇まい。しかしその内側には、監督としての鋭さと胆力、そして国を超えて人を動かす器の大きさが確かにありました。

私が参加したのはほんのわずかでしたが、それでも「この現場にまた戻りたい」と心から思いました。映画に関わったというより、“人の輪に触れた”ような、そんなあたたかさがありました。

映画『ルノワール』は、複数の文化が交差しながらひとつの芸術に昇華していく作品。そして、その背景には静かに、でも確かに人を動かす“芯”を持つ監督の存在がありました。

またご縁があれば、次はもっと長く、早川組の空気に身を置いてみたい。そう願わずにはいられません。

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