志村けんの「鉄道員」での演技が、忘れられない。

志村けんさんといえば、やはり「変なおじさん」や「バカ殿様」。
お茶の間を笑わせてくれる、日本の“喜劇王”というイメージが強い。

でも、私にとっての志村けんさんは、
映画『鉄道員(ぽっぽや)』で見せた、あの静かな演技の人でもある。

出演シーンは多くない。
派手なセリフがあるわけでもない。
でも、あの空気感、たたずまい、視線の向け方——
画面に映るだけで、そこに“生きている人間”がいると思わせてくれた。

コメディアンとして第一線を走ってきた人が、
全く違うジャンルの作品で、まるで別人のように映る。
それは“演技”というより、もう“存在”だった。

笑わせることと、泣かせることは違う。
でも、どちらも「人の心を動かす」という意味では同じだ。
志村さんは、きっとその本質を誰よりも知っていたのかもしれない。

だからこそ、ほんのわずかな登場でも、観る者の心に残る。
そして、ふとした時に思い出す。
「志村けんって、すごい役者だったな」と。

喜劇も、悲劇も、演技も、日常も——
そのすべてを背負いながら立っていた、あのワンシーン。
私はたぶん、ずっと忘れない。

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