理不尽な世界と現代の「VIP」たちへ
最初に『イカゲーム』を観たとき、正直なところ、胸糞悪いだけのドラマだと思った。
理不尽なルールの中で、ただ人が無惨に殺されていくだけ。エンタメにしてはあまりに陰惨で、残酷だった。
でも、シーズン2、そして3へと物語が進むうちに、ふと気づいてしまった。
これは“フィクション”ではなく、“メタファー”なんだと。
戦争、貧困、経済格差──
この世界には、どんな努力も無力なほどの理不尽が、現実にある。
命の価値が、金や運で左右される世界。
生きるか死ぬかの選択肢さえ、自分で持てない人たちがいる世界。
テレビ越しにそれを眺める私は、まるで作中のVIP側にいるようだった。
血を流す現場からは遠く、安全な場所で、ただその光景を見ているだけの存在。
でも、それは『イカゲーム』の中だけの話じゃない。
今、私たちが生きているこの世界もまた、静かに“ゲーム”が進行しているのではないか。
気づかないふりをして、スマホをスクロールし、ニュースを眺め、SNSで嘲笑しながら、
どこかで本当に命が消えている、その現実から目を背けてはいないか?
理不尽が「フィクション」として描かれることに慣れてしまった私たちは、
それが現実に起きているときにも、鈍くなってしまうのかもしれない。
イカゲームを“観る側”でいられる今の自分に、問いかけたくなる。
本当に、そこにいるだけでいいのか、と。