2021年、メジャーリーグ・ベースボール(MLB)のクリーブランド・インディアンスは、チーム名を「ガーディアンズ(Guardians)」へと変更しました。100年以上続いた伝統的な名前の変更は、米国内外でさまざまな議論を巻き起こしました。
2024年にはドナルド・トランプ前大統領が「チーム名をインディアンスに戻すべきだ」と公に発言し、再び話題となりました。本記事では、この名称変更の背景、賛否両論の声、そして名前にまつわる社会的な意味について、中立的な立場から考察します。
「インディアンス」という名前の由来
チームの名称「インディアンス」は1915年に採用されました。その背景には、かつてクリーブランドで活躍したルイス・ソカレキスという、アメリカ先住民の血を引く選手の存在があったとされています。
一方で、当時の新聞記事や資料には、先住民をステレオタイプに描いたイラストやキャラクターが登場しており、必ずしも敬意のみをもって命名されたとは言いがたい部分もあります。
ロゴ「チーフ・ワフー」をめぐる批判
長年チームの象徴だったロゴ「チーフ・ワフー」は、赤い肌・大きな歯・誇張された顔つきのキャラクターでした。これに対し、全米インディアン会議(NCAI)など先住民団体は、「人種差別的であり、先住民に対する侮辱だ」として長年にわたり抗議を続けてきました。
MLBと球団はこうした声を受け、2019年にロゴの使用を中止し、2021年にはチーム名そのものも変更されるに至りました。
改名の意図と「ガーディアンズ」という新名称
新名称「ガーディアンズ」は、クリーブランド市内の「希望の橋(Hope Memorial Bridge)」に設置された“交通の守護神”像(Guardians of Traffic)にちなんでいます。地元文化に根ざした名称として、多くのファンや市民からは好意的に受け止められました。
一方で、一部のファンや保守系政治家からは「伝統の軽視」「過剰な政治的配慮(ポリティカル・コレクトネス)」といった批判もありました。
トランプ氏の発言とその背景
2024年、トランプ前大統領は演説の中で「クリーブランド・インディアンスという名前は偉大だった。あれを元に戻すべきだ」と述べ、再びこの問題が注目を集めました。
この発言は、いわゆる「文化戦争(culture war)」と呼ばれる、保守とリベラルの価値観の対立構造の一部として理解されることが多いです。つまり、この問題は単なるスポーツの話にとどまらず、アメリカ社会全体の分断を象徴する一例とも言えます。
名称を変えることの意味
名称の変更には賛否がつきものです。
「伝統を守るべき」と考える人もいれば、
「過去の誤りを見直すのは進歩だ」と捉える人もいます。
重要なのは、いずれの立場であっても、その名称がどのような歴史的背景を持ち、どのような人々に影響を与えてきたかを正確に知ることではないでしょうか。
名前に刻まれた歴史
私たちは、名前やロゴ、キャラクターに日常的に囲まれています。それが何気ないものであっても、誰かにとっては深い痛みや誇りとつながっていることもあるでしょう。
「インディアンス」という名前もまた、そうした歴史と社会の交差点に立っていた存在でした。
「ガーディアンズ」への改名は、その歴史を消すのではなく、新しい形での記憶と向き合うための選択肢だったのかもしれません。
【参考文献・ソース】
• Major League Baseball 公式発表(2021)
• National Congress of American Indians(NCAI)声明
• The New York Times, The Washington Post 記事(2021-2024年)
• “Louis Sockalexis and the Cleveland Indians,” Smithsonian Magazine