「なんで旅に出るの?」
そう聞かれたとき、うまく答えられなかった。
見たい景色があるから?
心をリセットしたいから?
非日常を味わいたいから?
そんな理由をいくつか並べてみるけれど、どれもしっくりこない。
たぶん、旅に出る“本当の理由”なんて、後からわかるものなのかもしれない。
ある日、なんとなく山に登った。
登山口に着いたとき、特別な感情はなかった。
ただ、靴紐を結び、ザックを背負い、黙々と歩き始める。
やがて息が上がり、汗がにじみ、足元の落ち葉を踏む音だけが聞こえてくる。
ふと立ち止まって見上げた空。
木漏れ日が揺れていた。
風が頬をなでた。
その瞬間、思った。
「ああ、これだけでいいんだ」と。
日常には、たくさんの「意味」がある。
意味のある仕事、意味のある会話、意味のある時間の使い方…。
でも旅の中では、その“意味”から自由になれる。
ただ歩いて、ただ景色を見て、ただ呼吸をする。
それだけで、ちゃんと「生きてる」と思える瞬間がある。
旅の魅力は、予定通りにいかないところにあるのかもしれない。
道に迷ったり、天気に裏切られたり、期待してなかった風景に心を奪われたり。
「思ってたのと違う」が、旅を豊かにする。
理由があって旅に出る人もいれば、理由がなくても出る人もいる。
どっちが正しいわけでもないし、どっちが深いわけでもない。
でも、ひとつだけ言えることがある。
旅に出る理由なんて、忘れてしまえばいい。
忘れたとき、本当の旅が始まる。
おわりに
忙しい日々の中で、ふと旅に出たくなる衝動がある。
それは逃げじゃない。
それは“戻ってくるための一歩”かもしれない。
だからもし今、なぜかわからないけど旅に出たい気分なら、
その違和感を信じてみてほしい。
答えは、歩きながら見つかるから。