「ブラジル代表には、もう昔のように個で打開できる選手がいない。」
サッカー解説者・セルジオ越後さんは、近年のブラジルサッカーについてこう語りました。
「最後に優勝した時のロナウド、ロナウジーニョ、カカ、リバウドの時代から、ああいう選手が出てこない。最後がネイマール。そして今はブラジルの子どもたちもiPhoneでゲームをやっている。遊び方が変わってきている。」
この発言は単なるサッカー論ではありません。教育に携わる私たちにとっても、とても考えさせられる内容です。
「自由な遊び」が天才を育てていた
かつてブラジルには、舗装されていない道路や空き地で、毎日のようにサッカーをする子どもたちがいました。
ルールも大人もいません。
人数が足りなければ3対3でも始める。
ボールがなければ丸めた靴下で代用する。
狭い場所だからこそ、細かいドリブルやフェイントが自然と身につく。
「教えられた技術」ではなく、「遊びの中で身につけた技術」が世界最高峰の選手たちを生み出してきました。
ロナウジーニョの誰も真似できない発想や、ロナウドの圧倒的な突破力は、決められた練習メニューだけでは生まれにくい能力だったのです。
子どもの時間は世界中で変わった
セルジオさんが指摘するように、これはブラジルだけの話ではありません。
スマートフォンやゲーム、YouTube、SNS。
世界中の子どもたちの遊び方は、この20年で大きく変化しました。
もちろんゲームそのものが悪いわけではありません。
ゲームには反射神経や判断力、協調性を育てる側面もあります。
しかし問題は、「身体を使って自由に遊ぶ時間」が大幅に減っていることです。
身体を動かしながら友達とぶつかり合い、自分で考え、失敗し、工夫する経験は、デジタル空間だけでは代替しにくいものです。
教育でも同じことが起きている
この変化は勉強にも表れています。
最近の子どもたちは、
「答えを探す」
ことは得意です。
しかし、
「答えを考える」
ことは苦手になっているように感じます。
AIに聞けば答えが出る。
検索すればすぐ見つかる。
動画を見れば解説してくれる。
便利な時代だからこそ、自分で試行錯誤する時間が減っています。
学力とは知識量だけではありません。
「考える力」
「工夫する力」
「失敗してやり直す力」
こうした力こそ、本当の学力です。
「暇」が子どもを成長させる
最近は、子どもの予定が詰まりすぎています。
学校。
塾。
習い事。
そして家に帰ればスマートフォン。
何もしない時間がほとんどありません。
しかし心理学や発達研究では、自由遊びや主体的な活動は創造性、問題解決能力、実行機能(計画・注意・自己制御)などの発達に重要であることが示されています。一方で、過度なスクリーン利用は睡眠や身体活動、学習への影響が指摘されており、利用時間や内容のバランスが重要とされています。
子どもは「暇だから遊びを考える」のです。
その時間が想像力を育てます。
勉強もサッカーも本質は同じ
勉強でも、
「この問題、別の解き方はないかな。」
「もっと早く計算できないかな。」
と考える子は伸びます。
サッカーでも、
「どうすれば相手を抜けるか。」
を自分で考え続けた子が世界的な選手になります。
答えを与え続ける教育ではなく、自分で考える教育。
これはAI時代だからこそ、ますます価値が高まります。
おわりに
セルジオ越後さんの言葉は、ブラジルサッカーへの警鐘であると同時に、現代教育へのメッセージでもあります。
便利な時代になったからこそ、子どもたちから「考える時間」や「自由に遊ぶ時間」を奪ってはいけません。
勉強もスポーツも、そして人生も。
最後に人を成長させるのは、自分で考え、試し、失敗し、また挑戦する経験です。
AIやスマートフォンは素晴らしい道具です。しかし、それらを使いこなす人間を育てるのは、遊びの中で育まれる創造性や主体性なのではないでしょうか。
参考
- 世界保健機関(WHO)「Guidelines on Physical Activity, Sedentary Behaviour and Sleep」
- UNESCO「Reimagining our futures together: A new social contract for education」
- American Academy of Pediatrics のメディア利用に関する提言