教育に携わっていると、一度はこんなことを感じたことがあるのではないでしょうか。
「厳しくすると子どもは嫌がる。甘くすると親は文句を言う。」
学校の先生も、学習塾の講師も、家庭で子育てをする保護者も、この言葉に共感する人は少なくないと思います。
子どもに宿題を増やせば「多すぎる」と言われ、注意すれば「怖い先生」と思われることがあります。一方で、宿題を少なくし、自由にさせれば、今度は保護者から「本当に勉強させているのですか」「もっと厳しく指導してください」という声が上がることもあります。
教育とは、誰か一人を満足させる仕事ではありません。子どもの成長という長期的な目標に向かって、日々最善を考え続ける営みなのです。
「厳しい」とは何か
まず考えたいのは、「厳しい」という言葉の意味です。
厳しい指導とは、大声で叱ることでも、恐怖で子どもを従わせることでもありません。
本当の厳しさとは、
・約束を守らせること
・提出物を期限までに出させること
・できるまで努力させること
・間違いをそのままにしないこと
です。
つまり、社会に出たときに必要となる基本的な習慣を身につけさせることです。
社会に出れば、時間を守ること、責任を果たすこと、努力を継続することは当たり前に求められます。教育は、その準備をする場でもあります。
「甘い」とは何か
反対に、「甘い教育」はどうでしょうか。
子どもが嫌がるから宿題を減らす。
忘れ物をしても注意しない。
テストの点が悪くても「仕方ないね」で終わらせる。
一見すると優しいように見えます。しかし、その優しさは、子どもから「成長する機会」を奪ってしまう可能性があります。
本当に子どものことを考えるなら、時には本人が嫌がることでも必要な経験をさせる勇気が必要です。
保護者もまた悩んでいる
一方で、保護者にも事情があります。
子どもが「塾に行きたくない」と言えば心配になります。
毎日のように親子げんかになれば、「もう少し楽しく勉強できないのか」と考えるのも自然なことです。
しかし同時に、保護者はお金と時間をかけて教育を受けさせています。
だからこそ、「成績を上げてほしい」「学習習慣を身につけてほしい」という期待も抱いています。
子どもの気持ちと将来への期待。その間で、多くの保護者もまた葛藤しているのです。
教育に必要なのは「厳しさ」と「支援」の両立
発達心理学者の ダイアナ・バウムリンド は、子どもの成長には「高い期待」と「温かい支援」の両方が重要であることを示しました。
つまり、
「頑張りなさい。」だけでは足りません。
「大丈夫、一緒にやろう。」も必要です。
逆に、
「無理しなくていいよ。」だけでも足りません。
子どもは適度な負荷があるからこそ成長します。そして、その挑戦を支える大人がいるからこそ、安心して努力できるのです。
教育者は全員に好かれる必要はない
教育者が目指すべきなのは、「人気者」ではありません。
目指すべきなのは、「信頼される人」です。
その場では嫌われることがあっても、数年後に「あの時言われた意味が分かった」と思ってもらえることがあります。
教育の成果は、今日や明日では測れません。
卒業後、社会に出てから初めて分かることも少なくありません。
だからこそ、その場の機嫌ではなく、その子の未来を見据えて指導する姿勢が大切なのです。
最後に
厳しくすると子どもは嫌がる。
甘くすると親は不安になる。
このジレンマは、おそらく教育が存在する限りなくなることはありません。
だから教育者に求められるのは、「厳しい先生」でも「優しい先生」でもなく、「子どもの将来に必要なことを、その理由とともに伝えられる先生」です。
子どもに迎合する教育でもなく、保護者の顔色だけをうかがう教育でもありません。
目の前の評価より、10年後の成長を見据えて関わること。それこそが、本当の教育なのではないでしょうか。