「うちの子、通知表で4や5を取っていますから、そこそこ勉強はできていると思います」
保護者との面談をしていると、こうした言葉を聞くことがあります。
もちろん、通知表で4や5を取っていることは立派なことです。学校での学習にきちんと取り組み、一定以上の成果を上げていることに違いありません。
しかし、ここで一つ注意したいことがあります。
通知表の評定が4や5だからといって、そのまま「高校入試に必要な学力が十分に身についている」と判断することはできません。
実際に、学校では英語4、数学5を取っている生徒が、模試を受けたら偏差値40台後半だった、ということは珍しくありません。
これは「通知表がおかしい」という話でも、「模試が正しい」という単純な話でもありません。
そもそも、通知表と模試では測っているものが違うからです。
通知表は「学校での学習状況」を見るもの
現在の中学校の評価では、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という観点から、生徒の学習状況を評価します。
つまり、通知表は単純なテストの点数だけで決まるものではありません。
授業への取り組み、課題、提出物、学習の過程、知識や技能の習得状況、思考・判断・表現など、複数の側面から学習状況を捉えます。
したがって、通知表の「4」は、
「その学校の評価基準に照らして、十分に満足できる学習状況にある」
という意味であって、
「全国の中学生の中で上位○%の学力がある」
という意味ではありません。
ここを混同してはいけません。
一方、模試は「現在の学力位置」を見る
模試は性質が違います。
学校の定期テストは、基本的に「ここからここまで勉強します」という範囲があります。
例えば数学なら、
「一次関数がテスト範囲」
と分かっていれば、その単元を集中的に勉強できます。
英語でも、
「この教科書のUnit○からUnit○まで」
と分かっていれば、単語や本文、文法を繰り返し練習できます。
ところが模試ではそうはいきません。
中1で学習した内容も出ます。
中2で学習した内容も出ます。
さらに、それらを組み合わせた問題や、初めて見る文章・資料・問題形式も出てきます。
つまり、
「最近習ったことを覚えているか」ではなく、「これまで学んだことを使えるか」
が問われるのです。
「定期テストは80点なのに、模試では偏差値45」の正体
例えば、こんな生徒を考えてみます。
英語の定期テストは85点。
通知表は「4」。
保護者から見れば、
「英語は得意なほうだろう」
と思うでしょう。
ところが模試を受けると偏差値46。
なぜでしょうか。
原因の一つは、知識が積み上がっていないことです。
中学英語は積み上げ型の教科です。
中1で学ぶbe動詞や一般動詞、三単現、疑問文、否定文。
その後に過去形、助動詞、不定詞、動名詞、比較、受動態……。
以前の知識が曖昧なまま次に進むと、後から必ず影響が出ます。
例えば中2の定期テストで「過去形」を一生懸命勉強し、85点を取ったとします。
しかし、
「Do you ~?」
「Are you ~?」
「Did you ~?」
の違いが曖昧だったらどうでしょう。
定期テストでは何とか乗り切れても、模試で中1・中2の文法が混ざった瞬間に、問題が解けなくなることがあります。
数学も同じ
数学では、さらに分かりやすいケースがあります。
中2で「連立方程式」のテストが90点。
通知表は「5」。
ところが模試では数学偏差値48。
これも十分に起こり得ます。
なぜなら、連立方程式そのものはできても、
- 正負の数
- 文字式
- 一次方程式
- 比例・反比例
- 小学校の割合
- 文章題の読解
などに弱点が残っている可能性があるからです。
入試問題や模試では、一つの単元だけを取り出してくれるとは限りません。
複数の知識を組み合わせて考えなければならない。
そこで初めて、
「できていたと思っていたこと」と「本当に身についていたこと」の違い
が見えてきます。
だから「通知表4=偏差値55」ではない
これは保護者の方にぜひ知っておいていただきたいことです。
通知表と偏差値は、そもそも尺度が違います。
通知表は、
学校での学習状況を評価するもの。
模試は、
一定の母集団の中で、現在どの程度の学力があるのかを見るもの。
したがって、
「評定4だから偏差値55くらいあるだろう」
とは言えません。
逆に、
「評定3だから学力が低い」
とも言えません。
学校の定期テストでは思うように点数が取れなくても、初見問題や応用問題に強く、模試では高い偏差値を取る生徒もいます。
本当に怖いのは「良い成績だから安心してしまうこと」
私は、通知表の数字そのものよりも、こちらのほうを問題だと思っています。
例えば中学2年生。
通知表は、
国語4
数学5
英語4
理科4
社会4
だったとします。
保護者からすれば、
「うちの子はかなり頑張っている」
と思うでしょう。
もちろん、実際に頑張っている可能性は高い。
しかし、ここで一度模試を受けてみる。
すると、
国語48
数学47
英語45
理科50
社会49
という結果だった。
ここで初めて、
「学校では評価されている。でも、広い範囲で見ると、まだ学力が十分に定着していない」
ということが分かります。
これはショックかもしれません。
しかし、中2の段階で分かったのなら、むしろチャンスです。
高校入試直前に発覚するより、はるかにいい。
「通知表」と「模試」の差を見る
塾で生徒の成績を見る場合、私はこの二つを対立させる必要はないと思います。
むしろ、
通知表+定期テスト+模試
をセットで見るべきです。
例えば、
パターン①
通知表4・5
定期テスト80~90点
模試偏差値55~60
→ 学校での学習も、広い範囲の学力も比較的安定している。
パターン②
通知表4・5
定期テスト80~90点
模試偏差値40台
→ 学校の学習には対応できているが、過去の学習内容の定着や初見問題への対応に課題がある可能性。
パターン③
通知表3前後
定期テスト60~70点
模試偏差値55前後
→ 学校の評価だけでは見えにくい、実力型の生徒である可能性。
もちろん、これだけで生徒を断定することはできません。
しかし、「成績表と模試の差」を見ることで、生徒の本当の課題が見えてくることがあります。
子どもの「現在地」を知ることが大切
教育で大切なのは、
「4を取った」
「5を取った」
という数字だけではありません。
もっと大切なのは、
「今、何ができていて、何ができていないのか」
を知ることです。
通知表は学校生活における重要な情報です。
定期テストも重要です。
そして模試も重要です。
どれか一つだけを見るのではなく、三つを並べてみる。
すると、
「学校ではよくできているけれど、実力問題になると弱い」
「定期テストでは苦戦するけれど、応用問題には強い」
「数学は安定しているが、英語は中1の内容から復習したほうがいい」
といったことが見えてきます。
そして、そこから初めて、本当の意味での学習計画を作ることができます。
「成績が良い」とは、何を意味するのか
通知表4・5は、決して価値のない数字ではありません。
むしろ、学校で継続的に学習に取り組んできた証拠です。
ただし、
「通知表が良い=受験学力も十分」
とは限りません。
学校の成績と模試の成績が一致しないことは、決して珍しいことではないのです。
だからこそ、
「うちの子は4だから大丈夫」
ではなく、
「4を取れている。そのうえで、模試ではどのくらいの学力なのだろう?」
と考えてみる。
これは子どもを疑うことではありません。
むしろ、子どもの現在地を正確に知り、これから何を勉強すればよいのかを考えるための、大切な作業です。
成績表は「過去の評価」。
模試は「現在地」。
そして、その二つを見ながら考えるのが、
「これから何をすべきか」
なのだと思います。