教育現場で子どもたちと接していると、一つ考えさせられることがあります。
それは、「競争を経験しないこと」や、「自分の気持ちは相手が察してくれるもの」という環境だけで育った子どもは、社会に出たときに困る場面があるのではないか、ということです。
社会に出れば、思い通りにならないことのほうが圧倒的に多くあります。
努力しても結果が出ないことがあります。自分より優れた人と出会うこともあります。自分から伝えなければ相手に気持ちは伝わらず、誰もが自分の状況を理解してくれるとは限りません。
もちろん、子ども同士を過度に競わせたり、失敗を責めたりする教育は望ましいとは言えません。また、困っている子どもへの合理的な配慮や支援は大切です。
しかし一方で、「負ける経験」「思い通りにならない経験」「自分の考えを言葉で伝える経験」は、社会を生きていくために必要な力を育てる貴重な機会でもあります。
教育の役割は、困難をすべて取り除くことではありません。
困難に直面したとき、どう考え、どう乗り越えるかを学ぶ機会を支えることです。
失敗から立ち上がる力、相手と対話する力、自分で判断し行動する力は、一度の授業で身につくものではありません。日々の小さな成功や失敗の積み重ねの中で育まれていきます。
だからこそ、大人に求められるのは、「楽な道」を用意し続けることではなく、子どもが挑戦し、失敗し、そこから学び直せる環境を整えることです。
教育の目的は、子どもを守り続けることではありません。
やがて自立し、自分の力で社会を歩んでいける大人へと育てることです。
本当の優しさとは、困難をすべて避けさせることではなく、困難に向き合う力を育てることではないでしょうか。そして、その力こそが、これからの変化の大きな時代を生き抜く「生きる力」につながるのだと私は考えています。